4051の創作

小説頑張って終わらす

1話⑥

しばらくすると、ノックの音がして扉をすこし開けた。

「おいヒノ君!昼食の時間だぞ!」

扉の隙間から頭をとびたして嬉しそうにキョウが言った。昼食で嬉しそうなところがおれを楽しみにさせていた。

「わかった。」

おれは扉をしっかり開けて、廊下に出た。



「ここが食堂だよ。とりあえずワタシがヒノ君の分も頼んどくからそこに座って待っててくれ。」

キョウが指差した椅子に座り、辺りを見回した。イロトリドリの髪の人たちがそれぞれ談笑しながら楽しそうになにかを口に入れていた。あれが″食堂″の″食べ物″なんだろう。みている途端にお腹がなった。

「お待たせ。これはカツ丼という食べ物だよ。メニューの中で一番ワタシが好きな食べ物なんだ。」

カツの上の卵がきらきらと輝いていて、いいにおいがした。すると、キョウが食べ始めたので見よう見まねで二つの棒切れ(箸のことである)を手に持ち口に入れた。…すごく美味しい。

「お、それはうまいって顔だな。良かった。」

気にいってもらえてよかった、とキョウは嬉しそうにしていた。

「そういえば、ワタシも15階に部屋移動するから。」

しばらく食べていると、唐突にそう言ってきたので何も返せなかった。

「あの子もついてくるだろうし、何よりあいつに食事を持っていくのが楽になるしな。」

キョウはあいつ(どいつだ)さんに皮肉めいて言った。もしや…さっき見なかったことにした部屋の住人か…?

「じゃあ、ここで待ってて。いろいろ伝えてくるから。」

「お、おう…」

聞き終わらないうちにキョウは早足で行ってしまった。


しばらくすると、キョウはカツ丼セットを持っていてその後ろには淡いオレンジ色の髪の女の子がついてきていた。控えめな性格なのかな。

「お待たせヒノ君。」

「早かったな。」

そう言うと、キョウは「あ、いやぁ~」と頭をかき、女の子の肩をぽんと叩いた。

「実はな、こいつ説得?するのに時間かかってな。すぐついてくると思ってたから。」

「だってぇ…」

女の子はしょげて、キョウと反対の方に目線をそらしていた。

「あ、あの…おれ、ヒノです。」

おれは女の子に自己紹介すると、肩をぴくりと動かしておれを見た。

「わたし、ロタリー。あなたがヒノ君ね。…女の人みたい…。」

そう言って微笑んだ。…おれって女みたいな顔かなぁ?

「確かにそうかもしれないな。」

「キョウも納得しないでよ。それより、ごはん持っていってあげようよ…。」

げんなりした声で言うと、キョウはおれ達を先導した。




続く





 


1話⑤

タンスの中から出した服は、ここ専用のジャージらしい。キョウも含め、みんなこれを着ていた。黒が基調のシンプルなデザインになっている。他にも雑多な服が納められていたが、とりあえずこれでいいだろう。

 着替え終えると、さっき気になっていた鞄の中身を見ることにした。ベッドに座り、手に触れた物から適当に出していくと5000円の入った財布、鎖のない懐中時計、音楽プレイヤーが入っていた。きっと懐中時計はまちこさんがくれたネックレスにもともとついていたのだろう。音楽プレイヤーは機械単体で、聞ける道具がなかったので、タイトルを見てもどんな曲なのかわからなかった。

ふと、日差しが強くなってきて窓をみた。そういえばキョウがさっき森というのがみえるとか言っていたのを思い出して、立ち上がって窓の前まで来た。

「うわあ…!」

まず目に入ったのはこの国の狭さだった。その次に目に入った森というのはあんなに広く行き渡っているのに。

 景色をみるのに満足し、この部屋で特にすることもなかったので近くの部屋に誰かいないか見て回ることにした。冒険するみたいでなんだかうきうきとした。


見当たらなかった。ただし一点を除いて。入るなとスプレーで扉全体に書かれており、おぞましいオーラを放っているような感じがした。マフィアでもいそうで近づくのもためらった。

「部屋に戻ろう…」

おれは見なかったことにしたのだった。




続く





1話④

部屋の内装を一言でいえば、ビジネスホテルみたいなかんじだ。壁紙は薄い茶色、ベッドは青色、机や服が入っているであろうタンスは明るい茶色だ(うまく言えないのが残念だ)。

「そういえば、自己紹介してなかったね。ワタシは、キョウ。″今日″じゃないよ」

辺りを見回していると、突然自己紹介をはじめていた。今日と発音が同じ、キョウという名前のようだ。

ふと、机の下の辺りを見ると鞄が置いてあった。何が入っているんだろうと気になって中を見ようとすると、キョウが「なあ、」と声をかけてきた。

「いつの間にか肩くらいの長さの金髪になっているけど。やっぱキミもこっち側だったんだな。」

「…はい?」

キョウはニコニコと嬉しそうに言った。…金髪?あり得ない。ここに来るまでは確かに茶色い髪で短髪だったはずだ。

「この部屋って鏡ある?」

「そこの部屋だよ。」

キョウが指を指した部屋は、洗面所だった。急いで鏡を見ると、確かに金髪で肩くらいの長さになっていた。付け足すと、毛先の方は茶色く残っていた。…でもさあ、

「わあああああぁえええええええええええ?!」

大声を発しながらおどいてしまった。

「確かに急に変わったらワタシもなるわ…」

キョウはやや同情していたが、やはりどこか嬉しそうだった。おれはそれを恨めしく見つめた。

「…あのさ、ハサミある?」

とりあえず、うっとおしい長さなので切ってしまいたかったのだ。キョウは少し考えるようなしぐさをして、

「あると思うけど、この感じだとすぐ伸びそうだよね。」

「そうか…。諦める。」

おれがしょげていると、キョウがドンマイと言わんばかりに肩をポンポンと叩いた。

「あ、もう少ししたら昼食の時間だ。時間になったら案内しにまたここに来るから、着替えとか部屋の整理とかしてなよ。」

「わかった。」

キョウがみた方を見ると、時計の針は11時ごろを指していた。そしてキョウを見ると、キョウは手を振って扉の外へ出ていったのだった。







続く





1話③

エレベーターで13階のホールに着くと、10数人の変わった髪色の人達がおれを見ていた。茶色や黒の髪色はなんともなかったが、変わった色…紫や水色はなんだか違和感を感じたのだ。

「はいはい、この子が新たな患者のヒノ君だ。仲良くしてやってね!」

突然黒髪の女性がおれの紹介を始めた。

「どうも…」

突然過ぎたので素っ気ない感じになってしまった。

「じゃ、あとよろしく~」

女性はそう言い残してエレベーターを降りて行ってしまった。

「全くあの人は……みんな、あとはワタシが案内とかするから、解散。」

この中で一番背が高く、眼鏡をした紫の髪色の男性がその場をしきっていた。リーダー的存在らしい。

「では、キミの部屋に案内するよ。」

「お願いします。」

「そんな堅くならなくていいよ。では、行くぜ!」

男性はキザったらしくエレベーターのボタンを押していた。なんだか腹のたつ言動だ。


15階のところでエレベーターを降り、右に曲がって少し進んだところでキザ男(勝手に命名)は足を止めた。

「ここがキミの部屋だ。外の森っていう緑色の部分よく見えるよ。うらやましい。」

なぜか羨望の眼差しをむけられたが、気にしないで部屋に入ろうとした。

「え、おい。ワタシも部屋に入れさせろ!…着替えてるとこみたりしないからさ!」

彼の言動に問題ありそうだが、着替え…服…そういえばおれ以外今着ている服を着ていない。

「部屋に、服あるの?」

「…ああうん。モチロンモチロン」

つっこむとこそこじゃないとかぶつぶつ言っていたが、おれはおそるおそる扉のノブをひねった。






続く






1話②


まちこさんが立ち去ったあと、カンカンと大きめの足音が聞こえてきた。ここはもっと静かにするべき場所ではないかと思えてきた。足音はおれがいる部屋の前で止まり、ガラガラと扉を開け、黒い短い髪の白衣を着た女性が入ってきた。女性は扉を閉めて、

「おはよーーーーーーー!!!!」

と大声で言った。あまりの大きさに耳を塞いでいた。そして、なんとなくもらったネックレスを着ていた服にポケットがあったので、そこにしまった。

「おはようございます…?」

よく考えてみたら、白衣を着ているということは、医者なのかな。おれは病気…なのか?

「どうだった?あの子からのメッセージは…?」

なぜか女性はニヤニヤしていた。気持ち悪い。

「はあ…」

「まーいいや。キミはね、記憶喪失なんだよ。それに他に病気も見つかって、今からいつでも治療できるように13階からの''寮''にはいってもらうから。」

なるほど、記憶喪失だったのか。起きる前のことが覚えてないことに納得した。それにしても、何の病気なんだろうか。どうせ、聞いてもわからないんだろうけど。

「ではでは、まいりますぞ~」

どういう路線でいきたいのか知らないが女性はおれに手招きしてきたので、おれはベッドから降りて立ち上がった。





続く




第1章 1話①



 目を覚ますと、 見たことのない白い部屋にいた。あたりを見回すと、おれは白いベッドで寝ていたようで、窓の向こうには大きな壁、その奥に緑色のものがうっすら見えていた。

「……。おれは、誰だ?」

どこにいるのかもわからないまま、新たな疑問がわいた。

目を覚ます前のことがぽっかりと消えていた。

 外の景色をぼんやり眺めていると、窓の反対側からコンコンと壁を叩く音がした。

音がした方を見ると、左中央にでっぱりのある扉があり、そこから女の人が現れた。

「入るよ―…。あ!起きたんだ!」

おれをみて嬉しそうにした女の人は、上半分の茶色い髪の毛のみ使いふたつ縛りをしてワイシャツとチェックのスカートを履き、肩から鞄を掛けていた。

どうやら、固有名詞は覚えているようだ。

「私のこと、覚えてる?」

女の人は恥ずかしそうに言った。前にあったことがあるようだ。

「覚えて、ないよね…。ヒノ、私はまちこっていうの。仲、よかったんだよ。」

おれは、ヒノという名前のようだ。

「ごめんなさい。」

何も覚えていないことに謝罪すると、まちこさんは悲しそうな顔をしていた。

すると突然、鞄のなかをごそごそと何かを探し、探したものをおれに差し出してきた。

「…思い出すのに役立つと思うからあげる。っといってもこれはヒノの物だけどね!」

おれはそれを受け取り、見てみるとそれはネックレスの鎖で首にかけられるようになっている指輪だった。

「それじゃ、これ以上学校遅れたら困るし、またねっ」

「…おう」

まちこは小走りで部屋から出ていった。

おれは、学校に行けないようだ。ということはここはおれの家じゃない。

結局、自分の名前しかわからなかった。





続く


プロローグ


――リーゼ王国、その国は深い森のはずれにあり、巨大な壁で周囲を囲った鎖国国家である。 この国の人達は外の景色すら見たことがない。しかしこの国最大の大きさの病院が唯一、「寮(トゥエンティー)」と呼ばれるとある階の病室からは外の景色を見れるらしい。


   これは、青年とその周囲のひとつの結末。