第1章 1話①
目を覚ますと、 見たことのない白い部屋にいた。あたりを見回すと、おれは白いベッドで寝ていたようで、窓の向こうには大きな壁、その奥に緑色のものがうっすら見えていた。
「……。おれは、誰だ?」
どこにいるのかもわからないまま、新たな疑問がわいた。
目を覚ます前のことがぽっかりと消えていた。
外の景色をぼんやり眺めていると、窓の反対側からコンコンと壁を叩く音がした。
音がした方を見ると、左中央にでっぱりのある扉があり、そこから女の人が現れた。
「入るよ―…。あ!起きたんだ!」
おれをみて嬉しそうにした女の人は、上半分の茶色い髪の毛のみ使いふたつ縛りをしてワイシャツとチェックのスカートを履き、肩から鞄を掛けていた。
どうやら、固有名詞は覚えているようだ。
「私のこと、覚えてる?」
女の人は恥ずかしそうに言った。前にあったことがあるようだ。
「覚えて、ないよね…。ヒノ、私はまちこっていうの。仲、よかったんだよ。」
おれは、ヒノという名前のようだ。
「ごめんなさい。」
何も覚えていないことに謝罪すると、まちこさんは悲しそうな顔をしていた。
すると突然、鞄のなかをごそごそと何かを探し、探したものをおれに差し出してきた。
「…思い出すのに役立つと思うからあげる。っといってもこれはヒノの物だけどね!」
おれはそれを受け取り、見てみるとそれはネックレスの鎖で首にかけられるようになっている指輪だった。
「それじゃ、これ以上学校遅れたら困るし、またねっ」
「…おう」
まちこは小走りで部屋から出ていった。
おれは、学校に行けないようだ。ということはここはおれの家じゃない。
結局、自分の名前しかわからなかった。
続く