1話⑥
しばらくすると、ノックの音がして扉をすこし開けた。
「おいヒノ君!昼食の時間だぞ!」
扉の隙間から頭をとびたして嬉しそうにキョウが言った。昼食で嬉しそうなところがおれを楽しみにさせていた。
「わかった。」
おれは扉をしっかり開けて、廊下に出た。
「ここが食堂だよ。とりあえずワタシがヒノ君の分も頼んどくからそこに座って待っててくれ。」
キョウが指差した椅子に座り、辺りを見回した。イロトリドリの髪の人たちがそれぞれ談笑しながら楽しそうになにかを口に入れていた。あれが″食堂″の″食べ物″なんだろう。みている途端にお腹がなった。
「お待たせ。これはカツ丼という食べ物だよ。メニューの中で一番ワタシが好きな食べ物なんだ。」
カツの上の卵がきらきらと輝いていて、いいにおいがした。すると、キョウが食べ始めたので見よう見まねで二つの棒切れ(箸のことである)を手に持ち口に入れた。…すごく美味しい。
「お、それはうまいって顔だな。良かった。」
気にいってもらえてよかった、とキョウは嬉しそうにしていた。
「そういえば、ワタシも15階に部屋移動するから。」
しばらく食べていると、唐突にそう言ってきたので何も返せなかった。
「あの子もついてくるだろうし、何よりあいつに食事を持っていくのが楽になるしな。」
キョウはあいつ(どいつだ)さんに皮肉めいて言った。もしや…さっき見なかったことにした部屋の住人か…?
「じゃあ、ここで待ってて。いろいろ伝えてくるから。」
「お、おう…」
聞き終わらないうちにキョウは早足で行ってしまった。
しばらくすると、キョウはカツ丼セットを持っていてその後ろには淡いオレンジ色の髪の女の子がついてきていた。控えめな性格なのかな。
「お待たせヒノ君。」
「早かったな。」
そう言うと、キョウは「あ、いやぁ~」と頭をかき、女の子の肩をぽんと叩いた。
「実はな、こいつ説得?するのに時間かかってな。すぐついてくると思ってたから。」
「だってぇ…」
女の子はしょげて、キョウと反対の方に目線をそらしていた。
「あ、あの…おれ、ヒノです。」
おれは女の子に自己紹介すると、肩をぴくりと動かしておれを見た。
「わたし、ロタリー。あなたがヒノ君ね。…女の人みたい…。」
そう言って微笑んだ。…おれって女みたいな顔かなぁ?
「確かにそうかもしれないな。」
「キョウも納得しないでよ。それより、ごはん持っていってあげようよ…。」
げんなりした声で言うと、キョウはおれ達を先導した。
続く