1話⑦
たどり着いたのは、さっきのマフィアっぽい部屋だった。まあ、15階に来た時点でわかったけども。恐怖と緊張で体が強ばってきた。でもおれよりロタリーのビビり様が尋常じゃないのが余計に入りたくなくさせていた。そんな心中を無視したノックの音が鳴り響いた。
「おーい入るぞー」
キョウは思い切り扉を開け、その勢いで扉と壁がぶつかりその音におれとロタリーは驚いてビクッとなった。開いた扉の向こうを見ると、青い髪の長髪でなぜかアイマスクをしたキョウと同じくらいの男が近づいて来た。
「よお、ブレイド。メシ持ってきたぜ。」
ブレイドと呼ばれた男はキョウを見ているのかはわからないが、なんだか嫌そうな顔をした。
「あ?匂いでわかったけど、またカツ丼かよ。たまには他のにしろよ。」
「他のがいいなら自分で取りに行きなよ。」
「面倒臭いからヤダ」
おれは呆然と二人のやり取りを見ていると、なんとなく視線が重なった気がした。
「キョウ、こいつ誰だ?」
ひぃ、怖い。じ、自己紹介しなきゃ‼
「は、ひゃい!おれ、ヒノです!!それ以外わかりません!」
「なんだそりゃ?!それ自己紹介って言わなくね?!」
そういわれても、返す言葉がありませんー!!
おれが困っていると、キョウが助け船を出してくれた。
「あーヒノ君は漫画とかでよくある”記憶喪失”ってやつなんだ」
「え?!マジ?!…なら仕方ないか。それよりやっぱアイマスクしてると眠くなるなー…」
そういってブレイドは大きな欠伸をした。二人のやり取りを見ているとあまりマフィアっぽくないとおもった。ふと、ブレイドの視線がロタリーへと移った。…気がした。
「お、ロタリーじゃん。いつも悪いな。…って、そんなカオすんなって。ここのやつらに何かしたことないだろ?」
ロタリーは顔を真っ青にしている。…この人は一体何をしたんだろう。
「それなら、アイマスクとって特訓の成果見せてみろよ。もう気絶もしないレベルなんだろう?」
キョウは試すような口調で言った。
「んー、まだ人には試したくないからやめとく。」
ブレイドは考えるそぶりをしてから断った。なんかあまりいい予感のしない能力な気がする。よくみたらアイマスクに”DEATH”(死)と書かれていた。なぜ今気が付いたのだろう。気づきたくなかった。
「そうだ。二人とも、そろそろ荷物が部屋に届いているはずだから、ヒノ君はロタリーの荷物運び手伝ってやってくれ。」
「お、おう…」
唐突に言われて、まともに返せなかった。
「キョウ君は…?」
ロタリーはおどおどとキョウに尋ねた。
「ワタシはまだこいつに用があってな。」
「…わかった。」
おれたちは、風のように部屋を立ち去った。扉を閉めたとき、かすかに「おい、カツ丼冷めてんじゃねェか!」と聞こえた気がする。
続く