1話⑤
タンスの中から出した服は、ここ専用のジャージらしい。キョウも含め、みんなこれを着ていた。黒が基調のシンプルなデザインになっている。他にも雑多な服が納められていたが、とりあえずこれでいいだろう。
着替え終えると、さっき気になっていた鞄の中身を見ることにした。ベッドに座り、手に触れた物から適当に出していくと5000円の入った財布、鎖のない懐中時計、音楽プレイヤーが入っていた。きっと懐中時計はまちこさんがくれたネックレスにもともとついていたのだろう。音楽プレイヤーは機械単体で、聞ける道具がなかったので、タイトルを見てもどんな曲なのかわからなかった。
ふと、日差しが強くなってきて窓をみた。そういえばキョウがさっき森というのがみえるとか言っていたのを思い出して、立ち上がって窓の前まで来た。
「うわあ…!」
まず目に入ったのはこの国の狭さだった。その次に目に入った森というのはあんなに広く行き渡っているのに。
景色をみるのに満足し、この部屋で特にすることもなかったので近くの部屋に誰かいないか見て回ることにした。冒険するみたいでなんだかうきうきとした。
見当たらなかった。ただし一点を除いて。入るなとスプレーで扉全体に書かれており、おぞましいオーラを放っているような感じがした。マフィアでもいそうで近づくのもためらった。
「部屋に戻ろう…」
おれは見なかったことにしたのだった。
続く